『ウインド・リバー』 :ネイティブアメリカン社会にある現実とは──

評価★★★★☆
原題Wind River
公開2017年
時間107分
監督テイラー・シェリダン
出演ジェレミー・レナー
エリザベス・オルセン
ジョン・バーンサル

First Impression

本格的なクライム・スリラー作品。

ウィンドリバーは米国ワイオミング州にある実在の地名であるが、この作品は実話をもとにしているわけではない

陰鬱なモチーフをもとに胸をえぐるような物語が展開される。平原と小高い丘ばかりのワイオミング州の延々と続く雪景色の中で、見るものの心に一滴の墨汁を落としたような気持ちにさせる映画である。

非常に強い緊張感を生み出すことに成功している良いサスペンス作品である。


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Plot

ウインドリバー保留地はワイオミング州にあるアメリカ合衆国内務省BIA(インディアン管理局)の管理下にあるネイティブアメリカンの部族の領有する土地である。

ハンターであり、アメリカ合衆国魚類野生生物局の職員でもあるコリー・ランバート(ジェレミー・レナー)は、スノーモービルを駆使して牛を襲ったピューマを探している最中に未成年の女の死体を発見する。その亡骸はコリーも良く知っていたナタリー・ハンソンのものだった。

これを殺人事件と判断したコリーと保安官はFBIに連絡したが、当局が寄越したのはまだ新米の女性捜査官ジェーン・バナー(エリザベス・オルセン)ひとりだった。

コリーも保安官も、冬のウインドリバーの気候にまるで理解がないジェーンに呆れながらも現場へと案内する。

現場での検分では、積もった雪の中を移動して来たにもかかわらずナタリーは裸足であり、また軽装だった。また近くの民家までは三マイル半もの距離があった。

コリーの見立てでは、雪に残った足跡から考えてナタリーは現場まで走って到達していた。そしてマイナス30℃の空気の中を走ってきたため肺が凍りつき、その結果肺から血が吹き出し、自分の血液で窒息したのだ。

監察医による詳細な検死の結果ナタリーは性的暴行を受けていた。だが自分の血液による窒息では他殺にはならなかった。死亡の遠因が暴行にあったことは確かだが、直接的な死因は窒息死だったからだ。

死因が他殺でなければ、FBIが捜査を続けることは法的に不可能になる。ウインドリバー保留地でのこの状況においては、捜査の権限はFBIではなくインディアン管理局になるからである。

捜査を続けるジェーンと保安官は、手がかりを掴むためナタリーの両親であるマーティンとコリーに会いに行くことになる。マーティンはコリーの親友でもあった。

マーティンのにべもない対応にジェーンは不信感を抱き、FBI的な手法で強権的な捜査を行おうとする。が、娘の死への責任感から自傷行為を止められなくなっていたアニーを目にし、ジェーンはショックを受ける。

そしてナタリーと保安官の前ではドライに装っていたマーティンもまた、親友コリーの訪問によって涙を堪えきれなくなり、ついにはコリーの肩で泣き崩れるのだった。

Review

イエローストーン国立公園で知られるワイオミング州は、全米50州のなかで最も人口が少なく、また人口密度も下から数えて二番目である。人口は56万人ほどだというから鹿児島市(県ではなく)の人口よりも少ない。

そういった状況に加え、この『ウインドリバー』の「行間」には ネイティブアメリカン特有の文化的背景と保留区外の社会との葛藤が厳然と描かれている

ウインドリバー保留区では近年若者の非行や犯罪が増えているという。とくにアルコールとドラッグの問題は根深く、そして高い失業率と貧困がそれに拍車をかけている

そしてこのような状況から抜け出すのは容易ではないようだ。言語の壁、教育水準の壁、そして差別。個人で対処できる問題ではないと理解すべきである。

彼らネイティブアメリカンの若者が希望を失い、あるいは自分ではない外部に希望を求めるのは理解できる。彼らに与えられた選択肢は米国内の他人種に比べて全く少ないからだ。

この作品のなかで殺されたナタリーも、そしてコリーの娘もまた外部に救いを求めたひとりである。そしてナタリーの兄も、ネイティブアメリカンの文化的背景から抜け出せなかったひとりである。

上記のような問題が起こっているのはアメリカ国内の話だけではない。カナダでは1980~2012年までの間に先住民であるネイティブアメリカン、そしてイヌイットの女性約1200人が行方不明、もしくは殺害されている。

カナダでは先住民の女性が殺害される危険性は先住民でない女性に比べて約7倍、そして2012年のカナダにおける女性の殺人事件被害者うち約4分の1は先住民の女性だという。

この作品の最後において「(米国内における)ネイティブアメリカンの女性の失踪者に対する統計調査は存在しない」とのキャプションが表示されるが、上記のカナダの状況から推察するに、米国内の状況がカナダよりはマシだとは到底考えられないだろう。

『ウィンドリバー』が投げかけ、そして語った内容はあまりにも深刻で衝撃的である。

我々日本人が「ネイティブアメリカン」という響きに感じるある種のロマンは、この作品には全く存在しない。

<おわり>

 

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