原題:Momentum
公開:2015年
時間:96分
監督:スティーブン・カンパネッリ
出演:オルガ・キュリレンコ / ジェームズ・ピュアフォイ / コリン・モス / モーガン・フリーマン
評価:★★☆☆☆
Trailor 予告編
First Impression まえがき
何だこの邦題は。売れない芸人がキングオブコントの予選でやるうっすいネタみたいなタイトルつけるんじゃない。
ジャンルはクライムアクション。そして視聴者をかなり混乱させる作品である。
ストーリーは一見しっかりしている。伏線もきちんと張られているように見えて、最後も上手くまとめられているように見える。アクションも悪くない。キャラも立っている。良い作品ではないか?
なのに、なんか見ていてものすごくイライラする! どうもこれは私の好き嫌いから来るものではないようだ。その原因は分かっている。それは解説で書くことにする。
Plot あらすじ
南アフリカ共和国ケープタウンのとある銀行内で強盗事件が発生していた。犯人は黒いスーツで全身を頭部まで包んだ四人組。
強盗らは金庫のセキュリティシステムを突破し目的のダイヤとUSBメモリを手に入れたものの、仲間割れが原因で強盗の内ひとりの覆面が脱げてしまう。覆面の下から現れたのは青い瞳に赤髪の女だった。
困惑する赤髪の女アレックス・ファラデー(オルガ・キュリレンコ)はマスクを脱がした仲間の一人ウェインを射殺し、他の二人とともにウェインの死体をバンに乗せて銀行から逃走した。
逃走の中継地へついた三人だったが、仲間ひとりが死んだことで関係が悪化する。戦利品の山分けは一ヶ月後とし、口喧嘩をしつつもそれぞれ自分の居場所へと帰ることになる。ウェインの死体は逃走に使ったバンもろとも焼却した。
ホテルの部屋で風呂に入りTVを見ながら休息を取っていたアレックスは、ニュース番組で強盗メンバーの女の似顔絵が作られたことを知る。アレックスが洗髪して色を落とした髪を乾かしていると、強盗仲間のケヴィン・フラー(コリン・モス)から電話が入る。
銀行強盗の首謀者で、かつての恋人アレックスを仲間に引き込んだのはこのケヴィンだった。同じ階に部屋を取っていたケヴィンに呼ばれ、アレックスは彼の部屋へと向かう。ケヴィンの言うことには、「保険」がこの部屋に来るのだという。
「ただ『彼女』には君のことは話していないんだ。だからちょっと隠れていてくれ」というケヴィンに、アレックスは渋々承知する。
ノックの音に「彼女」ジェシカを招き入れようとするケヴィンだったが、直後にジェシカの後ろから押し入ってきた三人の賊どもに殴られ制圧されてしまう。
賊どもはケヴィンが恐喝してカネをふんだくろうとしていたある米国上院議員の手配した殺し屋だった。ジェシカの存在はすでに彼らの捕捉するところとなっていたのだ。
賊のリーダーであるワシントン(ジェームズ・ピュアフォイ)は、二人を拘束した上でジェシカに携帯電話のコードを聞き出す。中には上院議員とジェシカの情事を撮影した動画が収められていた。
これがケヴィンの言う「保険」だったが、ワシントンは「これが恐喝の材料になるとでも?」と鼻で笑う。ワシントンはジェシカに動画のコピーが存在しないことを確認し、ジェシカを銃で殺害した。
殴られ床に転がされたケヴィンは、ベッドの下に隠れていたアレックスと目を交わす。アレックスが加勢しようとするのを感じ、ケヴィンは小声で「やめろ」と促す。
その後アレックスはベッドの上で拷問を受け続ける。ワシントンはケヴィンにUSBの在り処を言わなければお前の家族にも危害が及ぶと脅すが、ケヴィンは屈しなかった。結果ケヴィンはベッドの上で絶命した。
ワシントンはホテルのベランダへ出て彼の依頼主の上院議員(モーガン・フリーマン)にケヴィンが死亡したことを伝える。そして目的のUSBメモリも見つかっていないと。
当のUSBメモリはアレックスが発見していた。ケヴィンがベッドの下に隠していたのだ。アレックスは目の前に転がっていたケヴィンの鞄の中に銃があるのに気づく。
アレックスはベッドの下から抜け出し、ベランダで電話しているワシントンに銃を構え引き金を引くが銃は不発だった。すでに弾は全部抜かれていたのだ。アレックスは踵を返して全力でケヴィンの部屋から逃走しなければならなかった。
Review 批評と解説
前半部のダメさ加減よ
初見のとき、私は中盤でこの映画を見ることをやめようとした。「折角半分見たんだから」と考え、惰性で流しただけだ。前半はそれほど酷い。
主人公アレックスはとにかくミスを連発する。しかもまあまあ許容範囲と言える程度の過怠だけでなく、致命的な失態を何度も犯すのだ。
冒頭の強盗シーンの仲間割れから、すでに私は「ダメだこりゃ」的な感覚でいた。
強盗のプロフェッショナルのような装備をしているくせに、仕事の最中に仲間割れしたり、金庫の解錠に手間取ったり、手際が悪すぎる。おまけにアレックスは顔まで晒してしまう。
銀行強盗の逃走の中継地点がひとつだけなのはストーリー上の都合としても、アレックスとケヴィンが同じホテルの同じ階層に部屋を取っていることも完全なリスクだし、何を期待していたのか知らないがアレックスがほとんど裸同然でケヴィンの部屋に向かうのも不用心。アレックスがマガジンを確認しないでワシントンに銃を向けるのは有り得ないほどの大失態だ。
そしてカーチェイスの末せっかくワシントンの追跡をかわしたのに、車内のぬいぐるみに気を取られて信号無視を犯して警察に追われ、その結果ワシントンに再捕捉されたり、もう無茶苦茶過ぎるのだ。
ここまでで映画開始約30分である。私の疑念はむしろ作り手の方に向いていた。もしかすると制作陣はホームラン級の馬鹿なのか──?
作り手のどこまで考えていたのか
物語の流れが変わり始めるのは、上映一時間を過ぎることからだ。結局の所アレックスはワシントンに拘束されてUSBの在り処へ連れて行くことになるのがだが、その拘束された事自体がアレックスとケヴィンの妻ペニーの策略だったと暴露される。
そこから流れが多少どんでん返しみたいなことになるわけだが、前半部で力尽きていた私はとても再評価する気にはなれなかった。
作中で語られることが少なすぎて、作り手がどこまで伏線やフラグ立てを意識しているのか分かりづらいのだ。
銀行でアレックスのマスクが脱げたのは故意か
おそらく作品中最大の謎がこれだ。
アレックスは覆面を剥ぎ取られたあと、明らかに人質たちに自分の顔を印象づけるよう動いている。とすると、アレックスの顔晒しは意図的であり、仲間割れは芝居だったということになる。とすると撃たれて死んだ仲間のウェインは実は死んでいなかったことになるはずである(芝居なので)。
ウェインはエンディング間近で機内のアレックスの隣にいるラップトップPCの男である可能性がある。可能性があるなどと中途半端な言い方にならざるを得ないのは、劇中でほんの僅かな間だけ見せられる死んでいるはずのウェインの顔とラップトップの男の顔の同定が難しいからだ。
またウェインとラップトップの男はほとんど同じ位置に銃創があるのだ。ウェインがアレックスに撃たれたときの傷と、ラップトップの男が服の襟を下げて見せる傷である。
もしウェイン=ラップトップの男だとすると、アレックスはジェシカの存在をはじめから知っており、ジェシカを自分の身代わりにすることを計画しており、それをケヴィンにさえ隠していたということになる。アレックスはウェインの死体をバンもろとも焼却しているが、ケヴィンもウェインの芝居を知っていたならばそうする必要はないからだ。ウェインは生きていて、ケヴィンに悟られないように燃えるバンの中から逃げ出したか、あるいはどこかの時点で別の誰かの死体とすり替えられたことになる。
これはあくまで可能性である。そもそも作り手が舌っ足らず過ぎて作中で説明できていないのが問題である。ウェインとラップトップの男が製作陣によって同じ位置に傷を作られながら別人であったとするなら(つまりアレックスの顔晒しが単なる偶然、ミスであったならば)、やっぱりこの作品の作り手はストーリーをコントロールできないマヌケだったということになる。
アレックスは有能なのか?
とはいえ、仮にアレックスの顔晒しが確信的だったとしても、その後のミスの連発も同様に意図的だということにはならないのが微妙なところである。
マガジンの残弾数を確認しないでワシントンに銃を向けたのは故意ではない。だが故意であろうがなかろうが、アレックスの重大な失態であることに変わりはない。自分のことを態々晒し、殺される危険性を犯して逃げおおせる自信があるほどのスーパーマンとしてアレックスを描いたつもりなら、やはり制作陣は大馬鹿である。アレックスは逃げる最中に余裕なくかなり狼狽しているので多分故意ではなくミスだろう。
ワシントンから逃走中の車内でぬいぐるみに気を取られて信号無視をしてしまうのは、アレックスの過去と関係しているわけだが、そのことで失態が「免責」されるわけではないのは言うまでもない。
こうなってくると、アレックスという主人公の能力に結構な問題があるということにならざるを得ないのだ。
まだある様々な疑問
例えばジェシカの死体から首を切り落としたのはアレックスなのか、それともワシントン一味なのかだ。ワシントン一味がそんな事をする理由はないので、アレックスがやったに違いないのだが、周囲にワシントン達がいる中で随分余裕ある行動である。これももともと計画的なものか、それともジェシカの死体を発見したアレックスのインプロヴァイズ(即興でやった)なのかという細かい問題も出てくるわけだが、前者であればアレックスは未来予知に近いことをしたことになる。だいたいジェシカの首をいつどうやってペニーに渡したんだ? これはあらかじめペニーが、ジェシカの首を切り落とすというアレックスの行動を知っていなければペニーの手元に渡るはずないんじゃないか?
そしてさらなる問題は終盤、いつの間にかアレックスとペニーが着ていた服を交換していた部分である。「いつ着替えたんだよ!」と誰もが思う時系列である。おまけに警官がアレックスとペニーの区別と行動について無頓着だった幸運を期待しなければ成し得ない犯行でもある。この御時世に誰からも画像を撮られることなく。
Afterword さいごに
細かい疑問点はまだあるのだが、煩雑になるので避ける。ここまで書いてきて思うのは、作り手はアホだというほうに軍配が上がりそうな気配である。
そうでないのならば何か重要なことを見落としているのは私の方だということになるわけだが、うん、もはやどっちでもいい。結構な文章量を書いて飽きました。
あとどうでも良いことだが、敵キャラの名前が全員米国の元大統領のセカンドネームだ。まあモーガン・フリーマンの上院議員の計画を含め制作陣が反米的な立ち位置なのかもしれないし、ただのお茶目かもしれない。どうでもいいけど。
