評価 | ★★★★☆ |
原題 | Lights out |
公開 | 2016 |
時間 | 81 min |
監督 | デヴィッド・F・サンドバーグ |
出演 | テリーサ・パーマー ガブリエル・ベイトマン ビリー・バーク |
こういうのでいい
この作品の出来は・・・、はっきり言おう。
素晴らしい!
いまどきここまでストレートなストーリーはない上に、その鍵となるスーパーナチュラルな現象も単純ゆえにヴィヴィッドに恐怖感をそそる。このようなシンプルな超常現象の現れ方を編み出し、かつストーリー上で面倒くさい複雑なことをしなかったのは非常に好感が持てる。
まさに、「ほー、いいじゃないか。こういうのでいいんだよ。こういうので」 というセリフが実によく馴染む作品だ。
「”それ”が見えたら終わり」、は違うやつだけどね
人間は暗闇に本能的な恐怖を感じると言う。宵闇にも何処にでも煌々と光が照り輝く現代社会においては、幸いなことに闇は視界の周縁部へと駆逐されているが、人は闇への恐れを克服したわけではない。星明かりひとつさえない黒夜の闇を彷徨ったことがある者は、多分その気味悪さを覚えているはずだ。
漆黒の闇においては、風に揺られてさざめく空林も、砂浜に打ち寄せて荒立つ徒波も、自分をからかい常闇へと連れ去るが如き魍魎となる。
そこに何者かがいるかも知れない。
部屋のスイッチを切って光を追ってみたとき、闇の中に佇む本来存在するはずのない人影を見るかもしれない。スイッチを入れ、また切る。明かりのもとでは見えないその人影は、暗がりの中では以前よりあなたに迫っている。
アホなホラー映画は見習え!今日からな!
確かに誰もが考えつくような超自然的存在の登場の仕方だと思う。これまで誰もホラーのアイデアとして昇華しかったのが不思議なくらい単純な仕掛けと言っていい。今や世界中の文明社会で電灯のスイッチを触れない夜はない。その現代文明の普遍性のなかに超常現象を見出し物語にした手腕は見事だ。
またこの作品でさらに好感が持てるのは、登場人物の全員が非常に賢明であることだ。弟マーティンも彼氏ポールも主人公レベッカ、そして現象の原因である母ソフィも、不安や危険に対してほぼ最適な行動を取る。登場人物たちが最適な行動をとっても不可避な有事が起こるからこそ恐怖が生まれ、単なる運ではなく頭脳と理性(あと時には腕力)でそれを克服するからこそカタルシスが生じるのだ。
バカがバカげた行動を取ってバカ死にしたって、生じるのは「当たり前だこの野郎!」という怒りだけであることを、 客の気持ちを全然まるでわかっていないホラー映画の作り手はいい加減理解してほしいものである。
もうひとつこの作品で褒めたいことがあって、それはなんと紛れもなくハッピーエンドであるというところだ。ホラーでハッピーエンドはなかなかないが、この作品は思いっきってやっている。我々はまあ大体わかっているのだ。偽ハッピーエンドを。
「はいはい、安心させておいて『ドッジャーン』でしょ。わかったわかった。ほいきた。きたよこれ。すごいね!知ってたけど」が無い。良質なホラーにはそんなものが無くても別に構わないことが、この作品で分かった。素晴らしい!
<おわり>