『リビング・デッド サバイバー』 :実存的に生きよう。ゾンビに囲まれても。

評価★★☆☆☆
原題La nuit a dévoré le monde
公開2018
時間93 min
監督ドミニク・ロッシャー
出演アンデルシュ・ダニエルセン・リー
ゴルシフテ・ファラハニ

 

First Impression ─まえがき

フランスのゾンビもの、という前提が判明した時点である種の危惧が発生するわけだが、安心してください、その危惧、当たってますよ。

というわけで、この作品の焦点はゾンビ対策だとかゾンビからのサバイブではないし、そんなものを期待すると一時間半を無駄にすることになる。

ぶっちゃけるとゾンビは主人公男性の生き方の暗喩として使われているだけはい、おフランス


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Plot ─前半のあらすじ

主人公サムは内気な男性。元カノのアパートに忘れていた荷物を取りに行くと、なんとパーティの真っ最中。サムが取りに来た荷物とは彼が幼少期の頃に録音したカセットテープたちだった。

サムは彼女にカセットテープの場所を聞くも、彼女は今カレに連れられてなかなか話ができない。なんとかテープの場所を聞き出しサムは奥の部屋に向かうも、途中でカメラを持った人にぶつかり鼻を痛める。

奥の部屋でテープの入ったダンボールを探し当て一安心するも、鼻から血が垂れてきた。さっきカメラにぶつかったせいだろう。鼻血を止めるためにソファに横になったサムは、そのままぐっすりと眠ってしまう

翌日サムが目を覚ますと、アパート内は強盗に家探しされたように調度品が散乱し、壁には無数の血痕がベッタリと飛び散っていた。

サムは彼女の部屋から出ようとすると、部屋の外から元カノがゾンビとなって襲いかかってきた。サムは扉を急いで閉め、部屋の中に閉じこもらざるを得なかった。

Review ─批評と解説

タイトル詐欺?

まずタイトル。邦題がどうしようもないのは付ける薬もない毎度のことだから仕方がない。にしても原題の ” La nuit a dévoré le monde ” だ。「夜が世界をむさぼる」とでも訳したらいいんだろうけど、何を表しているんでしょうかね。こっちも作品の内容と噛み合ってないと思うんだよね。

まあでも、頑張って解釈すると、「夜」は主人公の後ろ向きの性格を表していると考えざるを得ないんだ。

主人公サムは、自分が子供の頃に家族の会話を録音したカセットテープが気になるくらい、「後ろ向き」な男だ(ということになっているはず)。作中はほとんどアパートの中から出ないで、ずっと一つの部屋の中に引き篭もっている。

そういったサムの前進できない心を「夜」と表しているんだろう。だがまあ、これも作品全体のディテールから考えると薄い表現で、サムが作品内でやっていることはそこまでチャレンジ精神がないわけでもないし、生き抜くためにそれなりの行動は起こしている。サバイバル生活の中でも楽しむ術の心得がある割とユーモアのある人間である。ドラムも結構上手いし。

あと終盤に現れる女性サラ(ゴルシフテ・ファラハニ。割と有名な女優らしい)は移民系(Sarah はイスラム圏でも多い女性名)。というかゴルフシテ自身がイラン系。これがアパートの屋根を伝って移動してきたと言うんだけど、そういった行動的な人が移民系だというのには結構説得力がある

ひょっとしてサムとサラ、そしてゾンビの関係は2019年現在のフランスの状況を表してる?これはかなり可能性が高そうだけど、作品自体がアレなのでそこまで深く考察する気力が沸かない。わたしには。

ゾンビはただの装飾品

ただ正直な話そのへんのことはもうどうでもよくて、そもそもこの作品の問題は、ゾンビという存在を主人公サムの心象風景のネガティブな側面を修辞するためだけに使っているに過ぎないということだ。

だから対象は別にゾンビでなくてもいいし、肉食動物でもいいし、陸シャークでも宇宙から来た殺人ピエロでもよかったわけだ。つまりゾンビ・アポカリプスを期待していると大変気分を害することになる。

というわけで、もちろん何故みんながゾンビになってしまったのかが解明されることはない。生き残りがどれだけいるのかも、政府がどんな対策をしているのかも、抗ウィルス剤も軍事的制圧もサバイバー同士の人間関係の葛藤も何もない。

おフランスの作り手は「そんなつまらないことを描く必要はない」と高尚に思っているのかも知れないが、逆だ!わたしたちがみたいのはそういうつまらないことなんだよこのヒョットコ!

ただ単に「孤独って辛いよ?」「思い切って『ジャンプ』してみよう!」「実存的に生きてみようよ!」というだけのこと(本当に「というだけのこと」だよ!わたしから言わせれば)にゾンビを使うのは本当に勘弁して欲しい。

最近ではもう世界に「ゾンビ」が増えすぎて、作品の主体ではなくて単なるギミック──しかも三次四次の──になってしまっている。

ラブクラフト神話みたいに手垢のついた題材がパロディされたり、修辞的表現の一部と化すのは仕方のないことなのかもしれないけど、期待して失望させられる方としては溜まったものではないね。もっと真面目にゾンビにぶつかりなさいよ!

あ、言い忘れたけど、中身は、ゾンビに囲まれて「おアパルトマン」から出られない主人公が、暇を持て余してドラマを叩いたり、閉じ込めたゾンビに話しかけるだけで一時間使う退屈な内容です。

<おわり>

 

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