『アナと雪の女王』 :雪と氷の魔法が織りなす真実の愛

評価★★★★★★★
原題Frozen
公開2014
時間102 min
監督クリス・バック
ジェニファー・リー
出演クリステン・ベル
イディナ・メンゼル
ジョシュ・ギャッド

First Impression ─まえがき

私は夏よりも冬のほうが好きだ(「おまえさんは雪国の辛さを知らないからそんなこと言えるんだ!」という声は聞こえない)。

冬にはロマンがある。頬切る風に、降り積む雪に、何かが、自分を鼓舞してくれる何かが宿っていると感じる。

多分誰もが、子供の頃に「雪を降らせる魔法が使えたら」と考えただろう。

『アナ雪』はそんな子供の頃のロマンを思い出させてくれる

だから見るのが怖かったのだ。でもそんな心配は無用だった。素晴らしい!

だがひとつだけ不満がある!一度見たら、一度目の興奮がもう味わえないじゃないか!私の記憶もなくして!パビー!


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Plot ─前半のあらすじ

アレンデール王国の王女エルサは雪と氷を操る魔法を使うことができる少女だった。ある日エルサは妹のアナと魔法で遊んでいる最中、魔法でアナを怪我をさせてしまう。

山に住むトロールたちのちからによってアナの傷は癒やされたものの、トロールは危険性を考え、アナの頭からエルサの魔法の記憶を取り去ってしまう。

しかしエルサは自分のちからを恐れていた。エルサは自身の魔法を制御することが出来なかったのだ。エルサは魔法が暴発しないように手袋をして部屋の中に引きこもり、アナとすら接触することを拒んでしまった。だがエルサの魔法の記憶を失ったアナは、エルサが自分をも拒否する理由を知らない。

そんな中、エルサとアナの両親であるアレンデールの国王と女王は隣国への出張の航海の途上、嵐に巻き込まれ命を落としてしまう。

やがてエルサはアレンデール女王として即位するが、その祝宴の最中アナは隣国の王子ハンスとの結婚の許諾を女王エルサに求めた。だがエルサは出会って一日の者同士の結婚は許さないと拒絶する。アナは姉エルサの命令に反発し、つい手がすべってエルサの手袋を外してしまう。アナの反抗はエルサを興奮させ、エルサは誤って氷の魔法を皆の前で見せてしまった。

祝宴の出席者も国民も魔法使いのエルサを恐れたことで、エルサはついに山の奥へ隠遁することを決意する。だがアレンデールは、皆を恐れ興奮したエルサの魔法によって雪と氷に閉ざされてしまった。

アナはエルサの魔法を解いてアレンデールをもとに戻し、そしてエルサを連れ戻すために北の山へと向かう。

Review ─批評と解説

氷の魔法とエルサの物語

エルサの魔法は比喩的に何を表しているのだろうか。

エルサが感情的になると魔法が暴発する。暴発した魔法は他人を傷つける。つまりエルサは自分の感情を制御できずに皆を傷つけるのだ。エルサの魔法は、その感情のほとばしり、エルサの言葉や行動そのものである

エルサも重々承知している。彼女の言葉が、行動が、思わず皆を傷つけることに。だから人と会うのを拒み、城の部屋に、山の上に引き篭もったのだ。エルサは誰かを、特にアナを傷つけることを極度に恐れている

アナはそんな姉を救おうとする。しかしエルサは救いに来たアナをも傷つけてしまう(なんてこったエルサ!撃たれたアナは本当に痛々しい!)。

子供の頃のエルサの感情はまだ強くはなかった。当たりどころも悪くなかった。だからアナは忘れることが出来た。だが大人になってより鋭くなったエルサの魔の感情は、アナの心の奥深くを怜悧に貫く

心が凍りそうなの」アナは言う。アナすらあきらめそうになるほど、エルサの氷の棘の如き感情は痛い。これを溶かすには「真実の愛」が必要だ。真実の愛とは、アナのエルサに対する献身的な行動である。傷つけられても傷つけられても姉を思い、姉をほうってはおけないアナの「真実の愛」である

真実の愛とアナの物語

両親に先立たれ、しかも姉エルサにも顔を合わせてもらえないアナは愛に飢えていた。初めた会った異国の王子との結婚を一日で決めるほど愛を欲していたのだ。だがエルサがアナのためを思って魔法で傷つけてしまわないようにと、アナを守るためにやむなく拒んでいたことを、アナは知らない。

だから「愛のことなんて分かっていないでしょう」とエルサにたしなめられたアナは、「エルサに(愛のことなんて)分かるの?いつも人のことを避けてばかりなのに」と息巻いてしまう。──わたしの気持ちも分からないのね(当たり前だけど)、とエルサは結婚を突っぱねる。

そんなアナも愛し合っていると思っていたハンスに裏切られる。

だがアナはクリストフやスヴェン、オラフとの冒険の中で少しづつ「人を思いやること」を身を以て覚え始めていた。

ハンスに裏切られ「愛がなにかもわからない」というアナにオラフは「愛っていうのは、自分より他人のことを大切に思うことだよ」と炎で身が溶けるのも厭わずに教え聴かす(GJオラフ!今日のMVPは間違いなく君だ!)。

事態の急変を知ってスヴェンを飛ばすクリストフのもとに向かおうとするアナ。アナの凍った心を溶かすにはクリストフからのキスが必要だった。だが、アナはハンスが姉エルサを剣で刺し殺そうとしているのに気づき、自分が凍ってしまうことも顧みず身を挺してエルサの盾になる。そして完全に冷気に蝕まれたアナの心と身体は、ハンスの剣すら粉々に砕くほど強固に凍りついてしまう

“Let It Go” が意味を変える

以上のように『アナと雪の女王』はプロットもストーリーも完璧だ。素晴らしい物語でこれ以上何も言えない。だがしかし、まだひとつ気になることがある

“Let It Go” はエルサが全てを拒否して氷の宮殿に籠もるという、一見エルサが自由になったように見えながら、実際には物語上ネガティブなシーンで使われている。

“Let It Go” の2ブリッジ目には “No right, no wrong, no rules for me. I’m free” という歌詞がある。日本語にすると「正しさとか、間違いとか、ルールなんてどうでもいいわ。私は『自由』なんだから」という意味だろう。ここでいうエルサの「自由」とは、本能のままに、感情のままに魔法を使えるという自由。つまり何者にも束縛されないで、本能と感情のままにやりたいことができるという自由だ。

しかしそれは本当の自由ではない

何故ならば本能と感情に支配されているからである。本能と感情の虜になって、それらを制御できずにむしろそれらの支配を受けているのだ。そんな支配を受けている状態が自由であるわけがない。孤独になったエルサは形としては誰の目も気にすることなく魔法が使えるという意味で「自由」になったが、未だ魔法を制御できず、逆に魔法によって制約を受けているのは以前と変わらない。

ほんとうの自由とは、本能や感情を支配して、それらに惑わされず自分自身をコントロールすることが出来ている状態である。これが前者の「自由」よりもよりバージョンアップした「自由」である。

氷の宮殿でのエルサは、感情に囚われた状態のエルサだった。だがアナの真実の愛によって自分の感情をコントロールする術を、自分の魔法を支配する術を知ったエルサは、一段階上の自由を知る。すると、”Let It Go” が、意訳すれば「解き放つ」という、つまり「魂の解放」としての本来のポジティブな意味を獲得する。

このように “Let It Go” という曲自体が、物語の中で成長しているのだ。エルサが氷の宮殿を作るシーンではややサスペンデッドな意味付けで。そして作品全部を見終わったあとは、同じ歌詞でも完全にポジティブに捉えられるように

もう少し例を挙げよう。1コーラス目で “slam the door” として、”open the door” にも “close the door” にもしなかったのは、 “open” や “close” には、ポジティブ、あるいはネガティブな感情の方向性が出てしまうからで、だからより中立な “slam” を使ったのだ。

“The cold never bothered me anyway” 「冷気はもう私を煩わさない」も、「完全に孤独になったから感情の赴くままに氷の魔法を扱える」というややネガティブな意味合いと、「魔法をコントロールできるようになったから、冷気もまた自由に操ることができる」というポジティブな意味合いが両方乗ることができる。

こうして改めてその歌詞を見てみると実に巧妙に作られている。この作品は、楽曲においても完全無欠である。大ヒットすることはすでに決まっていた、と言ったら褒め過ぎだろうか?なお日本語バージョン「Let It Go ~ありのままで~」も、意味を損なわずに日本語に翻訳しなければならないという制約のもとで、よくぞあそこまで出来たものだと感心する。素直にすごい。

あと素直に驚いたのは、日本語バージョンとオリジナルの英語バージョンでは、登場人物たちの口の動きが違う。つまり日本語バージョンでは登場人物たちがちゃんと「日本語で喋っている」。最近のディズニーアニメではこれが当たり前なんだ。すごすぎる。

実は悪役になるはずだったエルサ

『アナと雪の女王』はアンデルセン童話の『雪の女王』をもとにして作られ、本来ならば『雪の女王』のようにエルサは悪役として出演する予定だったようだ。だが “Let It Go” が書き下ろされたあと、そのイメージに合うようにストーリーが作り直され、私たちが見た『アナと雪の女王』になったという。

そして今年2019年11月22日(金)には、『アナと雪の女王2』の公開が控えている。また新しいエルサとアナの物語が見れるなんて、こんなに嬉しいことはない。今度はエルサとアナとクリストフ、そしてスヴェンが冒険に出かけるそうだ。だから今年の冬は、

少しも寒くないわ」。

<おわり>

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