『黒い箱のアリス』 :解説するのもバカバカしいタイムリーパー

評価★☆☆☆☆
原題Black Hollow Cage
公開2017
時間105 min
監督サドラック・ゴンザレス=ペレヨン
出演ロウェナ・マクドネル
ジュリアン・ニコルソン
アイデ・リサンデル

First Impression ─まえがき

タイムリープループもの。

そしてどうしようもなくバカバカしい作品である。

こんな作品は考察するにも値しないのだが、どんな風にアホらしいのかきちんと説明しておかねばならないと思うので、敢えて書く。


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Plot ─前半のあらすじ

アリス(ロウェナ・マクドネル)は事故で右腕を失った少女である。その事故では同時に母親も失っていた。運転していたのは父親のアダム。アダムはアリスのために義手を与えた

だがアリスの心の傷はまだ癒えていなかった。アリスは飼っている犬を「ママ」と呼び、本当の母親であるかのように接していた。義手の訓練さえも上手くいかないと拒んだ。アリスは母親も右腕も失った事実を受け入れられなかったのだ。

ある日アリスが散歩していると、一辺がアリスの背丈ほどの真っ黒な立方体が森の中に存在しているのを発見する。アリスが左手を近づけると立方体の一部が開き、中に紙切れが入っていた。「彼らを信用しないで」と書かれたその紙切れの文字は、どう考えてもアリス自身が左手で書いた文字だった。

一方父親アダムも近所の森を散歩中、酷く殴られたと思わしき少女エリカとその弟ポールを発見し、介抱するために家へ連れ帰る。

エリカの言うことには、エリカを殴ったのは彼女の彼氏のデヴィッド。エリカはデヴィッドに性行為を要求されたが、エリカは弟ポールがいるからと拒否、つい殴ってしまったところデヴィッドに報復されたということだった。

アダムは姉弟に「ここに泊まっていい、帰りたければ家まで送ってやる」と告げた。アダムの家のセキュリティが十分なのでデヴィッドに襲われる心配はないとも。

だがアリスは姉弟ふたりに、やはりなにか不穏な空気を感じ取っていた。さらに夜、庭の灌木の茂みから家の中を誰かが覗いているのも発見する。

翌日アリスは再び立方体を訪ねる。立方体の中にはメモリーカードが入っていた。そして「家の時計で四時になったらヘッドフォンで聞いて」と書かれた紙切れも添えられていた。

アリスはこれらメモリーカードや紙切れを立方体に入れたのは未来の自分だと考えた。黒い立方体はアリスの意思によって動くタイムマシーンなのだ。

四時になりアリスはメモリーカードの音声を聞き始める。その声は紛れもなく自分自身のものだった。

声はアリスに犬ママを姉弟から隠すように指示する。そして父アダムにデヴィッドが外にいると告げて一時的に家から出すこと。そして朝食のサンドイッチを作るふりをして、包丁でポールを刺し殺すこと。

メモリーの声は、さらに言う。「怖いだろうが、私を信じろ」と。そして「エリカも殺せ」、「これまで同じ結末を迎えてきたが、殺すのはこれが初めて」だとも。

だがアリスはあまりのことにポールを殺せなかった。そのせいでその夜、もっと悲劇的な事件が起こることになる。

Review ─批評と解説

あまりにも薄いプロット

この作品は20分くらいのショートショートで描くべき内容だった。

アリスや父親アダムの感情を描写するのにやたらと長い尺をとっているが、はっきりいって作り手の自己満足に過ぎない。

描こうとしていることが薄すぎる

もちろんアリスが母親と自分の右手を失ったというトラウマは理解できる。父親アダムがそれを引き起こしてしまったという罪悪感を持つことも理解する。

しかし最終的にその解決手段がタイムマシンなのだ。タイムマシンで事故の原因を無くして、結果母親が戻ってきて、アリスもアダムも謎の姉弟もデヴィッドも苦渋の選択をしないで済む? 

そこになんの文学的感情的思索があるというのだ。

それとも結局は義手を使うことにも消極的なアリスが、トラウマを克服して積極的になったからいいとでも? 馬鹿な。タイムマシンで原因を取り除いたら、トラウマさえ存在しないことになる

世界構造のいい加減さ

さらに理解できないのは、この作品世界の構造である。タイムループ世界には大きくわけてふたつの排他的構造が存在する。わたしが今勝手に名付けたものでいうと並行宇宙解釈とBTF解釈である。

平行世界解釈とは

並行宇宙は、実質的にはタイムループではない。ドラゴンボールのセル編で見られるように、過去を変えても未来に影響しないパターンである。それぞれの時間軸は独立しており、起こったことは変えられない。

たとえばアリスが過去に戻って父親が事故を起こさないようにしても、その過去の時間軸世界では事故が起こった事実は形成されないが、過去に来たアリスが自分自身の時間軸に戻っても事故が起こった事実は存在しているのが平行宇宙解釈である。上記のふたつの世界は独立しており、干渉し合うことはない

BTF(Back to the Future)解釈とは

BTF解釈のBTFは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の意である。BTF世界では過去に介入すると、その介入の程度によって未来が変わらねばならない。時間軸は一本しか存在しない。BTFの主人公マーティが自分が生まれる前の過去に戻って、自分の母親を殺害したとすると、自分が生まれることはなくなる(ので母親を殺すことができなくなるという矛盾が発生する)。

タイムループものは必ず少なくとも上記の内どちらかの世界観をとる必要が出てくる。

矛盾した世界

この『黒い箱のアリス』はどちらの世界を取っているか示されていないが、恐らく作中人物のアリスやアダムはBTF的世界を前提して理解している

しかしながら作品は並行宇宙論的描写になっている。なぜなら未来のアダムが過去のアダムをバットで殴り倒したとき、過去のアダムは頭部から血を流していたが、未来のアダムの頭部に傷が発生した描写はないからである。

時間軸が一本ならば、過去に起こったことは未来に干渉しなければならない。なのに一体どういうことなのか。この作品がBTF世界だった場合、他にも矛盾が出てくる。

例えばメモリーカードを送ってきたアリスは、それを聞いていたアリスの死によって存在しなくなってしまうはずである。アリスはもうメモリーカードに自分の声を録音することは出来ない。従ってメモリーカードを送ることも出来ない。メモリーカードの存在は消えなければならない。

メモリーカードが消えれば、それを聞いていた未来からやってきたアリスも存在しなくなる。すると過去のアリスは、未来から来たアリスと出会うことはなくなる。よって父親が過去のアリスからタイムマシンについて聞くことも、姉弟の正体について知ることもなくなるだろう。

これを解消するには過去にやってきたアリスが、やってきて一日目の夜の間に最初の紙切れを過去に送り、さらにメモリーカードに姉弟殺害を指示する録音をしてこれも過去に送り出していた必要がある。

もちろんアリスがそんなことに気づいていた描写も、実際にしている描写もない。過去にやってきたアリスは、自分が姉弟を殺害しようと思ってきているから、そんなことを緻密に計算して行動したようには思えないが、いや実際そうしたのだと言い張ることは出来る。だいたいそもそもこの作品は重要なことを何も描写していないので何とでも後付出来る。

非常に面倒くさいことを言っているが、BTF解釈でタイムパラドクスを登場させるには、時系列を精密に管理し、こういった矛盾を完全に解決することは絶対に避けては通れないのだ。ただ二十分の作品だったならばそこまで文句を言うまいが──。

しかしこの作品が平行世界だとすれば、解釈は容易である。

しかしその場合は、アリスが父親が事故を起こす前の過去に戻って事故を阻止しても、自分本来の世界では何も変わっていない事故を阻止したあとでアリスが自分の未来に戻っても母親は「生き返って」いないし、右腕も復活しない

だからアリスの行動には何の意味もなくなる。せいぜい出来るのは過去のアリスを殺害し、自分が過去のアリスに成り代わることくらいである。義手のままで。

やたら扇情的

あるいはもうひとつだけ全てを解決する手法がある。それは夢オチである。全てがアリスの妄想だったで片がつく。そんなことを示唆する描写はないが、いい加減な作品だからそういう解釈も許されていると考えているかも知れない。

しかしどう矛盾を解決しようとも、この作品には他にもどうしようもない部分があって、アリスという子供の意思や精神世界の一端を描こうとしているくせに、そこそこきつい暴力描写や性描写があることだ。つまりこれは完全に大人向けである。

そしてそれらは完全に必須ではない。その描写がなければ成り立たない作品ではない。つまりそれらは観客、特に一部の人々に対して煽情的な目的を持って挿入されている

言いたいことは以上。

<おわり>

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