『アナイアレイション ─全滅領域─』 :「宇宙からの色」による汚染がもたらす創造

評価★★★☆☆
原題Annihilation
公開2017
時間115 min
監督アレックス・ガーランド
出演ナタリー・ポートマン
ジェニファー・ジェイソン・リー
ジーナ・ロドリゲス

Trailer ─予告編

 

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宇宙からの色

あたり一帯を支配しているのは、混沌とした光輝くあの燐光、井戸から発する謎めいた毒素の、異界的でこの世のものならぬあの虹だった──識別も不可能な宇宙的色彩をたたえて、沸きかえり、感じ、波うち、伸び広がり、明滅し、歪み、不気味に泡立っていた。

ラヴクラフト全集4 宇宙からの色

以上の引用は、この作品がモチーフのひとつにしたと思われるラヴクラフトの『宇宙からの色』の一節である。この『宇宙からの色』 はラヴクラフトの短編の中でも、私が最も好きなもので、まさに「コズミックホラー」と呼ぶに相応しい一編である。

この作品でも『宇宙からの色』に似て、色に汚染された生物には不思議な特徴が現れる。主に食物として摂取することによって、DNAが「混ざる」のだ。

DNAが混ざることによって、本来その生物が持っていなかった形質を獲得する。例えば樹木が人間の形質を獲得し、人型に成長する。あるいはそれは人間が植物の形質を獲得し、植物型の人となったものなのかも知れないが──。

拡大する汚染エリアへの調査

物語はナタリー・ポートマン演じる生物学者のレナへの尋問から始まる。レナはシマーと呼ばれるようになった色に汚染されたエリアから戻ることができた二番目の人物である。シマーから戻った最初の人物はレナの夫のケインだった。

物語はこのレナの回想によって語られる。

レナは汚染地域の調査隊に志願した。レナにはそうしなければならないふたつの理由があった。シマーから戻った夫ケインは肉体と記憶に異常をきたしていた。その解決策がシマーの中心にあるのではないかと考えたからである。そしてもうひとつは、浮気をしていたことの贖罪のためである。ケインは浮気に気づいていたのではないか──。

シマーに入った調査隊は奇妙なものを目にする。生物の特徴が混交しているのだ。レナはそれがDNAの交雑によるものだと喝破するが、理屈はわからない。ただシマーの中心であり、最初に汚染の始まった、ある灯台に近づけば近づくほど、DNA混交の度合いが深まる。すべての原因はその灯台にある。

ラストの意味

ホラーとしては、いわゆる驚かせ型のそれではない。じわじわと、まさにシマー汚染のように染み渡るタイプの怖さがある。そして途中で発見する端末からの動画などによって、汚染の実態と前調査隊に何が起こったのかが少しづつ明らかになる様は、まさにラヴクラフト的なアプローチである。

調査隊員もやがて恐怖に侵され、段々とSAN値が低下していく様子もまさにクトゥルフ

さてレナは夫ケインと同様にシマーから生還する。レナが灯台の中で放火したことによってシマーの原因も取り除かれ、色も消えた。

基地へ戻ったラストシーンで、レナはケインに聞く。「(あなたは)ケインじゃない。そうね?」。ケインは「ああ」と答える。この質問には多分二重の意味がある。「オリジナルのケインではないでしょ?」という意味と、「浮気のことを覚えていないよね?」という意味である。レナはオリジナルのケインじゃなくても、この複製ケインと生きていく覚悟をしたみたいだ。

一方複製ケインもレナに尋ねる。「君はレナ?」。レナは答えることができない。当然だ。この質問でレナは悟ったからである。二人は抱きしめ合うが、複製ケインの目は、レナの浮気を知っている。「ここを出たら、レナを探せ」と、レナが灯台で見た動画でオリジナルのケインは言っていた。これに対し複製のケインは「わかった」と答えていたのだ。

オリジナルのケインは何故複製ケインにレナを探せと言ったのか?複製のお前が俺の代わりにレナと暮らせとでも?もちろんそうではないだろう。

この作品、最後まで徹底的にラヴクラフト的である。

<おわり>

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